玄関の風景 紡|紀州のセミコートハウス その6 | 築紡|根來宏典

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2021年2月19日(金)

玄関の風景 紡|紀州のセミコートハウス その6

内部のお話に移りたいと思います。玄関の正面には五寸角の大黒柱、左右には来訪者をおもてなす広間と小間の和室を配置。天井が高く、梁や垂木を現わした印象的な空間。地元紀州産のヒノキで構成。垂木のサイズは57×240㎜、ピッチは一尺(303㎜)。通常の三尺ピッチで架ける軸組と比較すると、3倍の手間が掛かっています。腕利きの大工さんに感謝。柱頭は複雑な取り合いになるのですが、木材の断面欠損の課題を解消しつつ、如何にシンプルに見せれるかを工夫しています。

 

和歌山県は良質な木材が採れる木の産地。紀伊半島の南の方は、特に良質なヒノキの山々が広がっています。紀州材は、徳川家康が江戸幕府を開いた際、江戸城の改装、諸国大名の屋敷、神社仏閣などに使われ、脚光を浴びたそうです。油気が多く、目込みが良いため、強度や耐久性に優れていることが特徴。時間が経つほどに落ち着いた光沢がより惹き立つ素材です。

 

軸組を決めるのは、設計事務所の仕事。近年はプレカットの技術が進み、現場で大工さんが手刻みするようなことは少なくなりましたね。とはいえ、機械加工できない納まりについては手加工。まだまだ大工さんの技術は必要です。つまりハイブリット。それにしても今回はプレカットに関する質疑が多かった。質疑の多くなるような設計なのが要因なのか、施工会社の熱意が強すぎるのか、、、参りました。ただ、その時間が楽しい。的確な質疑で助かりました。質疑がないと、逆に不安になりますしね。優秀なプレカット屋さんで私自身が勉強になりました。

 

木造、実はRC造やS造よりも難しいんです、、、柱や梁のサイズや掛け方だけでなく、接合部(仕口や継手)の検討が大切。地震による木造住宅の被害は、この接合部の問題によるものが多いのです。柱、梁、谷木や隅木が複数取り合ってくると、そこはホゾ穴だらけで断面がスカスカになってしまいます。そういった欠損を減らし、いかに有効に部材から部材へと力を伝えるかという検討が重要なのです。

 

玄関には、外部から繋がるようにベンチを設えています。素材は濡縁と同じ炭化処理したタモ。それを接いで、幅広材として特別に拵えてもらいました。着色ではない自然の色、優しい風合いと肌触りが気に入っています。靴を脱ぎ履きする際の腰掛ではありますが、買い物袋などをちょっと置くにも重宝します。目線では気付かないのですが、ベンチの足元には坪庭に面した地窓を配置しており、足元と土間に敷かれた芦野石を美しく照らしてくれます。

 

玄関脇には、ウォークインの玄関収納。開口部は、上部を丸くして壁を塗り回すとともに、壁に厚みを持たせています。火燈口のようであり、重厚な蔵のようでもあります。奥左手にも出入口があり、そのまま廊下にウォークスルーすることができる動線計画。靴やコートはもちろんのこと、出張の多いご主人のスーツケースも仕舞っておく空間です。出入口は開き戸ではなく引込戸。開けっ放しにしていても邪魔になりませんし、風で急に閉まる危険もありません。玄関側は来訪者の目を奪う朱合の漆和紙、収納側はお出かけ前の身なりが整えられるよう鏡を貼った仕上げにしています。