好きこそ物の上手なれ | 築紡|根來宏典

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2020年9月3日(木)

好きこそ物の上手なれ

模型を作るのは得意です。上手なわけではなく、好きなだけ。社会人になって数日後、ある先輩に掛けられた言葉「ネゴロくん、座って仕事していいんだよ」と、、、無意識の内ですが、ずっと立って模型をつくっていたらしい。バカでかい模型をつくる事務所だったので、その方が効率的だし、ごくごく自然に。

 

師は図面ではなく、模型でデザインを決める。新人スタッフとして、とにかく模型をつくる毎日。後々気付くのですが、つまりデザインは師と新人スタッフとが打合せをして決めていることになる。その結果を先輩に伝える。ある先輩からは「なんで、お前に指図されなきゃならないの?」と言われたこともある。でも仕方ないよな。。。

 

「どんどん決めて良いよ。その方が仕事が捗る」と言う先輩もいた。「ただし責任を持て」と。新人ゆえ、分からないこと、先の読めないこと、現場の知らないことも多い。何度怒られたことか。でもその先輩には感謝している。プロジェクトの担当者になると休日はない。責任感が強い人ほど自主的に。その先輩は休日も出勤して、図面を描いている。私も出勤して模型をつくる。師も休まない。平日の師は多忙なため緊張感が漂っているが、休日は穏やか。受け身ではなく能動的で、クリエイティブな議論の場。建築家にとって大切な能力のひとつが統率力。こういった修行の中で、師や先輩、さらには後輩との人間関係を築き上げていくことが、その力を培う有効なプロセスのように思います。無茶苦茶な事務所でしたが、私が早くからプロジェクトを任されるようになったのは、そのような時間があったからだと思うのです。

 

最近は、模型をつくらない設計事務所が増えましたね。CADやCGの出現、インターネットやSNSの影響は大きい。働き方改革やリモートワークにより、益々それは進むことでしょう。このような時代において、模型をつくることなんて非合理的ですから。でも私は非合理性も必要だと思っています。合理化が進む現代を否定しているわけではありません。便利なツールは使った方が良いと思っています。ただ人間力を育むには、アナログな世界観が必要だと思うのです。元の能力が高くない自分を顧みて、そう思います。能力の低い者が、高い者に無理せず追いつくには「好きこそ物の上手なれ」そういうことだと思います。

 

上の写真は、模型の椅子をつくっている時の様子。スケール1/50、素材ヒノキ。いつも初回の提案時(現在、実施設計中の二世帯住宅)から、このスケール・精度でつくっています。建主さんに対して分かりやすくとか、アピールのためではありません。自分がつくりたいから。模型で確かめて、自分が納得したものを建主さんに提案したいから。今回の住宅では16脚。家づくりにおいて、建主さんには「家具の購入費用も確保しておいて下さいね」とお願いしています。「Yチェア10万円/脚×〇脚=〇十万円ですね」というと、大体の建主さんは笑顔になります。苦笑いかもしれませんが(笑)