内藤廣著の『素形の建築』。
タイトルに惹かれて買った本。1995年のことです。
この本を読んでも、タイトルの意味を理解するのは難しい。
内藤氏自身も「素形」とは何かを説明しろ、と言われても難しいと言っている。
内藤廣といえば、伊勢に建つ「海の博物館(1992年竣工)」。7年掛けたプロジェクト。
当時の日本はバブル時代、建築の世界はポストモダン真っ盛り、建築の作品も理論も百花繚乱。
私も学生時代は、ポストモダンを追いかけていた。
そんな時、この本と手に取り「海の博物館」を見に行った。修業時代1年目の夏休みを利用して。
その建築は、その場にひっそりと建っている。内部空間に入って鳥肌が立った。
「素形の建築」を言葉では表現できないが、体で感じた。
その場にしか存在しえない普遍的価値を。
「海の博物館」は、私が語らずとも評価は高い。
内藤氏は、こうも言っている。評価が高いのは時代の巡り会わせ。
経済がおかしくなりかけていた時期に完成したからこそ、評価がされたのだと。
今の日本はどうだろう・・・。
政府は、右肩上がりの成長を望んでますよね。
いろんな政策、制度、マニュフェスト、等が百花繚乱。
政治家は自身の功績を残そうと必死なのでしょうが、どれも行き当たりばったり。
普遍性を感じません。その結果、制度が疲弊し、おかしな方向に進むことになる思います。
建築や家づくりの制度も、そうです。
「素形の建築」とは、単なる形のことではなく、建築に純粋に取り組む意識の形態化だと思うのです。
見習いたいと思います。制度や社会の潮流に呑み込まれず。