師と、無礼な弟子 | 築紡|根來宏典

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2016年1月29日(金)

師と、無礼な弟子

昨日、久しぶりに師のもとを訪れた。本当に久しぶり。無礼な弟子です。

 

今から21年前、大学を卒業し、社会人となって修行した事務所。22歳の若造でした。
すぐに思ったことが「就職に失敗した!早くこの事務所辞めなきゃ」と、、、
詳しいことを語ると問題発言になるので、止めておきます。

 

24歳の時、15億の現場に送り込まれた。一人で、、、ありえない、、、無茶苦茶だ。
そんな若造が抱えられるプロジェクトではない。
施主は役所の人間、仲良くはしてくれない。

監理者である以上、ゼネコンとも仲良く出来ない。

 

雪深い会津。毎日、雪下ろし。友達は一人もいない。ここでの生活は1年常駐。
プロジェクトを任された時に言われたのが「この仕事は、自分の転機となる作品。そのつもりで頑張ってくれ」と。
プレッシャー、仕事量の多さ、未熟さに、夜も寝れない毎日が続いた。

 

このプロジェクトが終わると、開放される。事務所を卒業しようと心に決めていた。
最後に、師が会津の割烹料理屋さんに連れて行ってくれた。

一番高いコースを頼んでくれた。師がそんなところにスタッフを連れていくことなんかない。
二人だけの打ち上げ。本当に嬉しかった。でも、その考えが甘かった。最初の乾杯後の一言「次も頼むな」と、、、断れない。

 

次は30億の現場。まだまだ若造の27歳。

またまた会津。またまた一人、現場に送り込まれた。次は、1年半常駐。結局、フルタイムで7年勤めた。
師のことを知っている人からは「よく7年も続いたね、、、」と言われる。
7年勤めたが、合わせて2年半は東京に居なかった。だから続いたのだとも言える。

 

「事務所を辞めさせてください」というのは勇気がいる。震えながら言った。
師は「辞めてどうするの?」と、、、
「大学院に行って、もう少し勉強したい」と述べたところ、快く送り出してくれた。

 

辞めて一か月後、呼び戻された、、、社会人大学院だったので、働きながらでも問題はない。
欲しくはないけど名刺も作ってくれた。肩書は「顧問が良いかな?」と言われたが、
それって師より偉い立場なのでは、、、そして「嘱託」に。

 

話が逸れました、、、師より作品集『Toward Nature/走向自然』をもらいました。
中国の大連理工大學出版です。アマゾンでの購入は、コチラ≫

 

英語と中国語の併記。事務所では、海外プロジェクトも沢山動いていた。
中でも中国プロジェクトは、規模は大きいし、スピードは求められるし、辛かった、、、
英語は苦手だし、中国語は全く分からない。でも図版を見るだけで、師の言いたいことは分かる。

 

1ページ目をめくると「This book is dedicated to the memory of my wife」。

こんなこと、普通は書けないよな、、、師らしい。

 

奥さんには、本当にお世話になった。
私にとっては、女神のような存在だった。

夜中、私は師に、しょっちゅう怒られていた。
すると、丁度良いタイミングで、奥さんが迎えに来る。
師は、奥さんが迎えにくると機嫌が直るし、帰ってくれる。何度助けられたことか。

 

 

 

さすがに、このページにサインはもらえない。

 

めくって次のページにサインをもらった。
「様」は気持ちが悪い。「君」の方が良かった、、、

 

 

 

 

 

 

 

次のページには、謝辞。

 

伝統的な古民家の軸組を、現代建築として採り入れた実例とともに。
私の担当物件です。

 

 

 

 

 

 

 

その次のページは、目次。

 

大徳寺孤篷庵の茶室「忘筌」に見られる雪見障子を、
現代建築として採り入れた実例とともに。
こちらも私の担当物件。

 

 

 

 

 

 

師は、世界中を旅行している。

日本建築だけでなく、世界の歴史、文化、先人の叡智を自身の建築作品として昇華させている。
欧米における近代文化ではなく、特にアジアやアフリカといった土着的な叡智を。
それは、師の師である丹下健三を意識してのこと。

 

私は、事務所に入ったばかりの頃、スライド係でした。早く設計力を身に付けたくてアトリエ事務所に入ったのに、スライド係、、、
当時は、フィルムの時代です。師が旅行に行って帰ってくるとフィルムを渡される。
そのフィルムをスライドにし、師と一緒に見ながら旅行談話を深夜まで語ってくれる。
もちろん、その時間は楽しいのですが、図面を書いて、早く仕事を覚えたい、、、

 

師は講演も多く、旅行先で体験した先人の叡智と自身の作品を照らし合わせて語る。
講演の準備もスライド係の仕事。そのお手伝いをしていると、師の思考が分かってくる。
出張先から出張先への移動も多い。

出張先から電話が掛かってきて「あの内容で話すから、一時間分のスライドを揃えて持ってきて」ということもあった。
大丈夫か、、、新人に、そんなこと任せて、、、
メールでデータを送るなんてことはない時代。新幹線に乗って届けて、とんぼ返り。

 

アトリエ事務所にも関わらず、スタッフを海外旅行にも連れて行ってくれた。
トルコに旅行に行った時のこと。スタッフは、みんな楽しそうだった。
でも何故か私は師と相部屋、、、胃が痛くなった。本当の話です。

 

昨日は夜更かしして、見入ってしまった。そして興奮して、布団に入っても眠れなかった。
悶々としながら、ブログに書き綴ってしまった、、、
こんな陰口を語って大丈夫か、、、師に見られたら破門だな、、、

 

師から学んだことは「孤独」。建築家は、孤独な職業だと思う。
全てを一人で背負わないとならない。もちろんスタッフやプロフェッショナルは周りにいるが、自分が決断しないと何も動かない。
不安なのは当然。だから、とことん考える。そんなことが身に沁みついている。

「責任感」というのは、逆境においてこそ、真が問われる。クライアントとに対して、社会に対して。そして自分に対して。