高山寺では茶室『遺香庵』も特別拝観させていただきました。昭和6年に建てられたもの。設計は高橋箒庵、数寄屋大工は木村清兵衛、露地作庭は七代目小川治兵衛。そのアプローチから惹き込まれます。元々あった石垣を切り開き、階段を回り込むよう設けた植治の発想。閉ざされた門が開かれ、歩みを進めます。露地は苔生し、延段や飛石などは配されていません。案内してくれた方に、思わずここ本当に歩いてよいのか聞いてしまいました。「どうぞ」と。苔の発育に適した土地柄のようで、境内には100種類ほどの苔が生息しているそうです。
歩みを進めた高台には腰掛待合『茶徳亭』。頂に宝珠をのせた宝形屋根。内部は傘を広げたように垂木が架けられ、中央には鐘が吊り下がっております。境内の鐘楼も兼ねているそう。起伏に富んだ露地庭、飛石や景石は栂尾周辺で調達されたものを設え、周辺環境と融け合っています。茶室の入り口は、躙り口と貴人口の二つ。内部は三畳台目に床前畳を付したL字型の構成とし、茶道口と給仕口の動線を分けています。給仕口と床の間のあいだに隅板一枚を入れた近代的な設え。躙り口の脇には花頭窓が設けられ、草庵茶室でありながら、寺院建築の要素を取り入れているのがユニーク。