この時期、どうしても行きたかった『瑠璃光院』行ってきました。
京都は東山、修学院のさらに奥、比叡山の麓「八瀬」という場所。
現在は寺院となっておりますが、元々は明治から昭和初期に建てられた別荘建築。
当日は小雨模様。
現地に着くと雨が上がり、新緑と苔が映える絶好のコンディション。
山門をくぐると、そこから続く石段と『山露路の庭』。
百種以上のモミジやカエデが植わっているそうです。
一歩一歩、その景色に見惚れながら階段に足を進めます。
玄関を入り、まずは2階に上がります。
そして目に飛び込んでくる風景。大きな開口部の前に広がる新緑のモミジ。
そのモミジが黒塗りのテーブルに映し出され、幻想的に。
内と外とを一体に包み込むような新緑に染まる空間。
この景色に惹き込まれ、いつまでも座っていたい。
階段を下りて、一階にて主庭を臨みます。
2階で見たモミジが覆いかぶさり、苔の絨毯が奥まで広がっています。
『瑠璃の庭』と呼ばれ、瑠璃色に輝く浄土の世界を表しているそうです。
「せせらぎ」と「あぜ道」とが蛇行しながら彼方に消えゆく景色。
本館は高いところ、別館は低いところにあり、渡り廊下で繋がっています。
自然の地勢を中庭のように取り囲んだ数寄屋造りの建築。
名工・中村外二(1906-1997)が手掛けたもの。
階段を下ると、そこにはもう一つのお庭『臥龍の庭』。
池泉庭園で、天に駆け上る龍を水と石で表しているそうです。
こちらも座敷や縁側に腰を据え、いつまでも座っていたい。
臥龍の庭を眺める座敷の奥には茶室『喜鶴亭』。
こちらの別荘は、京福電気鉄道が所有した時期もあり、
1日に4組限定の高級料理旅館・喜鶴亭として
隠家的に使われていたこともあるそうです。
瑠璃の庭、臥龍の庭だけでなく、各所の窓から見えるお庭の景色も秀逸。
窓ごとに景色が異なり、その都度足を止めてしまいます。
起伏に富んだ敷地ならではの設えで、その自然を活かした借景は見事です。
作庭にあたったのは、佐野藤右衛門一統と伝えられます。
藤右衛門は、造園業「植藤」の当主が襲名するもの。
桂離宮や修学院離宮の整備を手掛けたり、
京都迎賓館の庭園を棟梁として造成したり、
パリ・ユネスコ本部の日本庭園をイサム・ノグチに協力して作った庭師です。
ここ八瀬は「八瀬のかま風呂」と呼ばれ、壬申の乱で背中に矢傷を負った
大海人皇子(天武天皇)が窯風呂で傷を癒した地と伝わり、
平安貴族や武士たちにも「やすらぎ」の郷として愛されてきたそうです。
この『かま風呂』は、日本式蒸し風呂の原型であり、現存する希少な遺構とのこと。
そしてなんと、料理旅館時代は実際にも使われていたそうです。
中に入って身を置くと、かまくらのように包み込まれ、心身ともに落ち着きます。
私は、この新緑美しい初夏が好きなのですが、
紅葉の時期、また違う景色が広がっているんでしょうね。
何度でも足を運びたくなる世界が、ここにはありました。