日本建築学会教育賞 その2 教育の創意工夫 | 築紡|根來宏典

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2014年4月18日(金)

日本建築学会教育賞 その2 教育の創意工夫

引き続き『教育の創意工夫』を紹介いたします——————————–

本校の特徴は、実践を前提にしたカリキュラムに特徴がある。各学生の仕事に差し支えない月1回の授業とし、1年で本校独自の教科書「実践的家づくり学校-自分だけの武器を持て」を使っての「座学」、2年で生産の現場を見てまわる「見学」、3年で個別の実践的テーマに取り組む「演習」、4年で建築家のスタジオに入って1軒の住宅をまとめあげる「設計」、といった明快な授業構成になっている。昨年度のカリキュラムから例にとると


1年生 座学コース 座学による現代の住宅のテーマを知る(年8回)
『住宅設計とは』  講師:本間至/生活する行為に対して、
                 建築部位がどんな作用を及ぼすか等
『素材から考える』 講師:泉幸甫/自然素材との向き合い方
             川口通正/汚れない建築
『構法から考える』 講師:大野博史(オーノジャパン)/建築家とのやりとりから生まれる
                 構造デザイン
『歴史から考える』 講師:山本成一郎/古建築の改修や、伝統工法を用いた現代の建築
『木から考える』  講師:古川泰司/森を守る国産材の活用
             松本直子/産地からの直接購入
『外構から考える』 講師:村田淳/ゾーニングや設備との取合い
             泉幸甫/計画性を超えた自然との出会い
『環境から考える』 講師:半田雅俊/日射取得率も考慮に入れた実践的断熱設計
『手づくりをいかに残すか』講師:泉幸甫|山本成一郎|藤原昭夫
                /ロジステック、鋳鉄による架構他


2年生 見学コース 建築生産の現場を知る(年8回)
『石』  講師:植松時四郎「深大(石屋)」/稲田石の採石場、加工工場見学
『植木』 講師:佐伯四郎「佐伯造園」|内田清市(植木材料屋)/曼珠苑の植木畑
『建具』 講師:荒川義昭「荒川木工所」/秩父にある木工所群、荒川木工所
『古材・再生素材』 講師:安井正/古道具店「柳沢商店」、石膏ボード再生工場
『古建築』講師:山本成一郎/日光東照宮
『左官』 講師:木村一幸「木村左官工業」/富沢建材
『木材』 講師:古川泰司+上林規男(きこり)/秩父山中、金子製材、岡部材木店
『和紙』 講師:久保孝正「久保昌太郎和紙工房」/東京松屋、久保昌太郎和紙工房


3年生 課題コース 具体的なテーマについて、講義と演習課題(年8回)
『茶室』 計2回 講師:川崎君子 講師の設計による茶室で茶事の体験、設計の講義後、
         実際に存在する茶室の改善案作成
『屋根』 計2回 講師:徳井正樹 講師が開発した新作瓦を見学、
         屋根の役割について講義後、「雨と熱」の視点での屋根のデザイン提案
『工法』 計2回 講師:藤原昭夫 東日本大震災における仮設住宅をはじめ、
         講師が考案した新しい工法の紹介の後、国内の林業活性を念頭に、
         木質系素材を主原料とした工法の提案
『自然』 計2回 講師:松原正明|講師:安田滋(安田滋アトリエ)
         講師が設計した田園風景の中の週末住居を体験後、ローテク・ロー
         エネルギーによる「自然に溶け込む夫婦二人の小さな家」を設計提案


4年生 スタジオコース  実際の敷地が与えられ、4人の実績ある建築家から一人を選び、
そのアトリエで設計をまとめる。(年8回)

川口通正/川口通正建築研究所 
  素材に精通し、狭小住宅をはじめ多数の住宅を手掛けた建築家のもとで設計をまとめる
半田雅俊/半田雅俊設計事務所 
 パッシブソーラー等環境に配慮した住宅に精通する建築家のもとで設計をまとめる
本間 至/ブライシュティフト
 住宅の間取りや美しさを構築的に追求する建築家のもとで設計をまとめる
諸角 敬/スタジオA(アー)
 多様な手法を使い分けながら美しい空間を追求する建築家のもとで設計をまとめる

年度ごとに講師、講義内容を少しずつ変えていくことにしている。上の学年がリピーターとなって下の学年を受講し、学年相互のコミュニケーションも図れるためである。また、産休・育休などからの復学や、年度途中からの受講など、学生個人の状況に対し、少人数だからこそできる柔軟な運営体制をとっている。

講義外の活動として、講義後の懇親会(毎回)、SNSによる意見交換、講師の住宅完成見学会、学生主催による修学旅行(全学年参加)など積極的に行い、学生同士だけでなく、講師との間も身近な距離でコミュニケーションを図っている。

学生との間に身近な関係をつくっていると、例えば、こんな声が学生から聞こえてくる。
「1年で既成概念を覆され、2年で生産現場を目の当たりにすると、そのまま上に進むのはもったいない。もっと自己修練を積んでから、3年の課題や4年の建築家スタジオに臨んだ方が自分のためになるのではないか」「4年を1回きりで終わらせたくない。今度は○○先生のスタジオに入りたい」
我々としてはそういった学生の心の変化を歓迎し、前述のように、「休学-復学」の道筋を設けたり、4年を複数回受けることを認めたり、柔軟な運営をしているわけである。
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根來宏典