大谷石 | 築紡|根來宏典

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2009年5月1日(金)

大谷石

大谷石の採掘場は、地下掘りです。

 

大谷石というと、フランク・ロイド・ライト設計の旧帝国ホテルで使用され、
一般の人にも聞き覚えのある石かと思います。

 

また大谷資料館(採掘場跡地)を訪れたことのある人は多いでしょう。
近年では、コンサートや結婚式の場として利用されるなど、

利用価値の高い場所ですね。

大谷石に反響する柔らかな音の響きは、なんとも言えない感動があります。

 

 

 

 

我々が訪れたのは、その資料館ではなく、現在、採掘している現場。
これは、とてもラッキーなことで、そうそう経験できることではありません。
大谷石の採掘現場に潜ったことのある設計者は、少ないことと思います。

 

まずは入口。作業者用の足場を、ドンドン下りていきます。
宇都宮の地面を掘れば、直ぐ『大谷石』が出てくる訳ではありません。
表層度を深く掘り進め、

7×7mのコンクリート擁壁の立坑を作りながら掘っていきます。

 

細い足場をドンドン降りていくと、

コンクリート擁壁と大谷石岩盤との結界ラインが。
この辺りから、一気に暗くなり、寒さと湿度が増します。
さらにドンドン下りていきます。かなり怖い、、、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い足場。ジメジメした地下空間。
大谷石の岩盤からは、湧水が滴り、頭や洋服に水が落ちてきます。
木製の足場板は、ところどころ朽ちており、細心の注意が必要です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

降り立ったのは、地上から深さ50メートルの平場。
緊張しながら足場を下ってきたせいか、

見上げると足が震えます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こちらは坑内平面図と断面図。

 

地上から50mの深さに平場があります。
これから横に平場空間を広げ、

さらに深さ30m採掘していくそうです。

 

このように採掘を続けていくと、

大谷石資料館のように大規模な地下空間になるのですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平場の横方向には、巨大洞窟が広がっています。
これが大谷石が切り出された跡かと思うと、

ますます足の震えが止まりません。

 

切り出される原石のサイズは、300×300×900mm。
今では、チェーンブロックで引き上げられますが、
昔は人力で荷揚げしたそうです、、、

 

 

 

 

 

 

闇の中、わずかな光を頼りに、石を切り出す風景。

 

地下採掘場見学は、私にとっての人生観、そして建築に対する設計観を大きく変える刺激的な経験でした。地下にいる間、ずっと足は震えっぱなし、、、

恐怖でしょうか、寒さでしょうか、足場を下ってきた肉体的なものでしょうか、、、

いや初めて経験する非現実的な感動に違いありません。

 

大谷石の採掘場は、最盛期には120社程あったそうですが、現在は8社程。
大谷石を切り出す職人さんは高齢化し、今後は職人不足になると聞いていたのですが、この地下採掘場には若い方が何人かいらっしゃいました。
大谷石の明るい兆しを感じ、なんだか嬉しくなりました。

 

 

こちらは、F.L.ライト設計の旧帝国ホテルで使用した大谷石の採掘場跡地です。
先で申したように、大谷石の切り出しサイズは決まっております。
それ以外のサイズは特寸。その特寸を沢山使おうとしたのがF.L.ライト。
あまりにもの手間に対応してくれる石屋さんがなく、

F.L.ライトはこの石切り場を買上げたのだそうです。

 

 

 

 

 

 

 

 

大谷石の建築事例として紹介したいのは、

故・渡辺明さんが設計した「二期倶楽部」。

 

1986年に6室のオーベルジュとして始まったリゾートホテル。
周囲の自然と混然一体となった建築。

世界中から多くの思想家や芸術家が訪れます。

 

 

 

 

 

 

 

床には『芦野石』、壁には『大谷石』がふんだんに使われております。

 

芦野石と大谷石の目地割り取り合いも完璧です。
これは採掘する際の原石サイズが同じだから。
原石の切り出しサイズを知っていなければ、出来ない合理的な目地割りの術です。

 

 

 

 

 

 

 

 

内部も見学。石の厚みを活かしたコンセントや空調レタン。石の厚みを上手く活かした重厚感あるディテールです。イサム・ノグチの照明との調和も美しい。

壁面の大谷石の表面に入っている斜めの筋は、職人さんが一本一本、手で彫ったそうです。気の遠くなる作業ですね。当時の職人さん達の熱意が伝わってき、今もなお、その魅力が際立っています。

石というと、硬くて冷たい素材と思われがちですが、それぞれが素朴でありながら温かみを感じる自然素材です。その素材の魅力を惹き出すには、職人さんの存在は不可欠。やはり、手づくりの痕跡が残った建築は良いものですね。

年月の積み重ねとともに魅力を増す建築、そんな建築を私も目指したいと思います。

 

 

最後に「大谷石でできた建築群/集落」を紹介します。

 

集落にある総建物数99棟の内、62棟の大谷石建造物が残っている集落。
塀や外壁のみならず、窓飾り、小庇、屋根も大谷石でできた建築群です。

 

 

 

 

 

 

 

どれ一つとして同じ建築や蔵は無い。どれも個性的です。

 

昔、職人さん達が、その意匠を競い合ったのでしょうか。
その全体性としての建築群は、なお一層個性的で、

素晴らしい魅力が残っている集落。

 

夕方に訪れたのですが、時間が止まったようで、私はこの空気感が大好きです。

 

 

 

 

 

 

その中でも、特に異彩を放つ蔵。

 

大谷石にも色々あり、特に品格の高い「徳次郎石」という石があります。
現在では採掘されなくなった石なのですが、その石で造られた蔵。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その蔵の外壁。ミソが少ない、肌理が細かいという見栄えだけでなく、劣化が少なく、長きに渡って美しい保存状態が保たれていることが分かるかと思います。

故・渡辺明さんも、二期倶楽部を設計する際に見学され、参考にされたそうです。

 

大谷石だけでなく「石の産地」には、何度も訪れています。思うことは「何度も足を運ぶこと」の大切さ。天候、物理的環境、自身の心的状況の違いによって、見え方、感じ方は違ってきます。一度では、理解できないことも沢山あります。

 

それは、自身の経験値の違いも大きく影響します。

一度、その素材を用いた設計を経験すると、次の課題が見えてきます。

本当に、その素材が好きかどうかを追及する場ともなるのです。