建具屋さんに足を運んだことのある設計者は少ないのではないでしょうか、、、
近年の既製品建具の普及に伴い、その足は益々遠退いているように思われます。
設計者自らがモノづくりの生産現場に身を置き、知見を広げ、
目を養い、人とのネットワークを広げていくことは重要なことだと考えています。
埼玉県ときがわ町は、建具のまちで、町内には70件程の建具屋さんがあるそうです。
こちらは、全て受注生産のオーダー建具屋さん『下雲木工所』さん。
無垢硝子戸や格子戸などの説明。さらにその組み方、縦桟、横桟の組み方の説明。
最近は、ハンガー吊り戸が多いので、金物との取り合いが要注意だとか。
同じくときがわ町にある『丸井木工』さん。
こちらは、NCカッターを導入している先進的な建具屋さんです。
NCとは、ナンバーコントロールの略で、
つまり、データを入れれば、ドンドンその通りに加工してくれる機械。
自然派(手づくり)志向の人は、機械化を否定する人もいるかもしれませんが、
近代的な技術も上手く取り入れていかないと、何事も発展しませんね。
手づくりと機械化と、どちらが良いとかではなく、どちらかになびくとかでもなく、
それぞれに得意、不得意があって、両方を上手く活かし合えれば良いと思います。
そのためには、設計者として、その得意、不得意を知らないと、何も始まりません。
NCカッターを用いれば、簡単に、精度良く、大量生産が可能になります。
埼玉県比企郡小川町にも、建具屋さんが集まっております。
フラッシュ戸を主に製作している工場ある『小久保工業』さん。
フラッシュ戸の下地となる骨組みの様子です。
骨組みの間には、ハニカムコアを入れ、両面に面材を貼り付けます。
プレスを掛けて、面材を圧着している様子。
プレスには、コールドプレス、ホットプレス、高周波プレスなどがあり、
こちらの工場ではコールドプレスを採用。コールドというのは常温のことです。
同じく小川町にある『高瀬木工所』さん。こちらもフラッシュ戸が得意の工場なのですが、
オートメーション化された高度な設備を導入しており、
面材の圧着は、熱を加えたホットプレスを導入しております。
埼玉県熊谷市にある『栗原木工所』さん。
こちらは、無垢の建具や特注品を得意としている工場です。
建具や欄間に使われる菱組の作られ方の解説。
ちなみにこちらの工場は、
旧浜離宮庭園「中の御門」の復元門扉も手掛けている凄い建具屋さんです。
最後は、東京都昭島市にある『荒川木工所』さん。
いまは使われなくなってしまった道具が大切に保管されています。
こういった道具を売っているお店は、今ではありませんし、
昔は、作りたい建具に合わせて、職人さんが自分で道具を作っていたそうです。
熟練の職人さんが即席で鋸の技を披露。
手加工だけでなく、機械加工も上手く組み合わせて建具をつくります。
こちらの機械は、刃が何枚か回転しており、動き早くて何が何だか分かりません・・・。
この機械を通すと、こんな複雑な加工が出来あがり。ホゾ組のオスの方ですね。
シンプルな機械に見えるが、凄いぞ。
欄間などの組子の世界。
「一重菱」や「井筒割菱」、「桐麻の葉」や「二重蜀江」といった感じで、
それぞれの組み方に名前があるようです。
工場の前に机を並べて、荒川さんによる青空教室。
建具の世界を一朝一夕で勉強出来るもんではありません。
障子に絞り、その形状や組手のことを、歴史から現代的な視点までを踏まえて、
分かりやすく教えてくれました。
いくつかの建具屋さんを廻ってきましたが、どこが良いということではありません。
建具屋さんごとに得意、不得意があったり、こだわりどころが違います。
もちろんコストにも関係してきます。
手加工が良いのではなく、機械加工とのバランスを、どう図っていくかが大切です。
荒川さんに教えてもらった『建具製作教本』。
設計者の知識を、建具屋さんのレベルまで高める必要はないかと思います。
ただ、あるレベルを知らないと、本物のデザインができませんし、
そのデザインを作ってくれる職人技術を知らずして、本質的な実務は成り立ちません。
建具業界は、今厳しい状況にあります。
今の住宅で使われている殆どの建具は、既製の工業製品。
建具職人が必要のない時代となっており、建具職人は後継者不足。
でも、ここで紹介した幾つかの建具屋さんは大丈夫です。後継者がいますので。